四十歳の時はじめて沖縄を訪れた。那覇が本島のどこに位置するかも知らずに、夏の講習会指導に赴き、以来今日まで沖縄の書友達と交流を重ねている。その間、多くの文化人と接触する機会に恵まれ、沖縄の新聞を購読し書籍を読みあさった。
平成二十年、書の題材を「沖縄」に求め、個展を開いた。沖縄には私を高揚させるさまざまな題材がある。書作に向かうにあたっては、奇を衒わず、品位ある、澄んだ凛とした線を追求した。それらの作品を一冊の本にして上梓したのが『中川泰峯書作−沖縄を書す』である。その後も私は沖縄をテーマとして書きつづけている。
沖縄の書家、屋部夢覚(やぶむかく)先生は、日本の書道史になぜ沖縄の金石文字や書人達が紹介されないのだろうか、と話されたことがある。そのことがいまも深く心に残っている。